読んだ本

夜のフロスト

創元推理文庫の夜のフロストを読み終えた。 754ページ、ずーっと面白い。 フロスト警部のキャラクターが立っているので、捜査が進展しなかろうがなんだろうが、退屈するページがないのである。こんな本はなかなかない。 作者のR.D.ウィングフィールドが亡く…

ジェネラル・ルージュの凱旋

海堂尊、宝島社。 「チーム・バチスタの栄光」、「ナイチンゲールの沈黙」に続く、田口&白鳥シリーズ第三弾。いまならまさに「読んでから観るか、観てから読むか」というところだが、私は「読んでから観る」を選んだ。 ついでに文庫ではなく、ハードカバー…

この世でいちばん大事な「カネ」の話

西原理恵子著、よりみちパンセ。理論社。1300円。 本書がビジネス書として売れていることにびっくり。 商売の話なんて、書いてないんだけどね。いや、そうでもないか。 でも、もっと切なく、切実に、生きることそのものの話が中心だ。 章タイトルがユニーク…

アキハバラ@DEEP

石田衣良著、文春文庫、720円。 プロローグ これはわたしの父たちと母の物語である。 社会システムに不適応だったゆかに図らずもつぎの時代を切り拓き、みずからの肉体と精神を一個の免疫細胞と化して新しいウイルスに備えた、力強く傷つきやすい父と母の物…

螺鈿迷宮

「螺鈿迷宮」上下巻、海堂尊、角川文庫。2006年11月発行。1000円。上下巻に分かれているものの、それほどの厚さはなく、一気読みできる。 デビュー作、「チーム・バチスタの栄光」、その直接の続き、「ナイチンゲールの沈黙 」はいずれも宝島社文庫だったが…

マドンナ

2002年、講談社。短編集。 え、これがあの奥田英朗の? とびっくりした。サラリーマンの哀感を描いたものだが、あたりきたりでぜんぜん面白くない。最後の「パティオ」がちょっと胸に詰まる話かなあと思ったくらいで、なかなか読めなかった。乗れなかったの…

生きる歓び

橋本治の短編集。平成六年十二月三十日初版発行。 心の隙間を描いた短編が多い。市井の人に取り憑く能力みたいなものがものすごい。 ほとんどの短編で、「あるよなあ、これ」とおもう。それは事象というより、心持ちに近いものだ。自然とか、店とか、家の中…

灘の男

灘の男。二〇〇七年、文藝春秋社。 車谷長吉、私小説作家廃業宣言後の勝負をかけた聞き書き小説集。 自著を語る 灘の男(「文學界」平成十七年四月号) 「はあ。わしが濱長や。灘の濱田長蔵や。わしはもう何もいらん。」 表題作は著者の郷土とも関係の深い播州…

ダブルアップ

ダブルアップ、宝島社文庫。700円。 ハセベバクシンオー、2作目。 2005年6月、書き下ろし作品。 澱んだ空気が堆積している。博打狂いが吐き出す通常よりも重たい二酸化炭素が底のほうに沈殿していた。 気配を消し気味に必要最小限の仕事をする従業員と、脳汁…

ビッグボーナス

「ま、いくら正確に目押しができても、ビッグボーナスを揃えることはできないんですけどね」 「えー! そうなの?」 えー! そうなの? って、そんな当たり前のことにビックリしているお前に、おれはビックリだよ。 ハセベバクシンオー。宝島文庫。 第2回「…

蝉花

山上龍彦、すなわちマンガ家の山上たつひこである。最近、「中春こまわり君」で再脚光を浴びているが、一時期、マンガを止めて、小説に専念していた。 小説は、山上龍彦名義で、「兄弟! 尻が重い」(講談社、1993年)、「太平」(講談社、1993年)、「蝉花」(集…

世界一周恐怖航海記

直木賞作家、車谷長吉の長編エッセイ。 平成十七年十二月二十六日(月) 日本脱出したし 皇帝ペンギンも皇帝ペンギン飼育係りも 塚本邦雄「日本人霊歌」 併し私は今日まで日本を脱出したいと思うたことは一遍もない。ところが、このたび日本を脱出することにな…

酒気帯び車椅子

中島らも。長編小説。初出、「小説すばる」二〇〇四年三月号〜八月号 霧のような雨がもやを成している中を私は早足で「ひさご」へ向かった。とにかく早く一杯やりたかった。「ひさご」は横須賀本町に建つ私の家のごく近くにある居酒屋だ。そのまつすっと家に…

沖で待つ

絲山秋子。第134回芥川賞受賞作。 本書には「勤労感謝の日」と「沖で待つ」が収録されている。薄い本である。 勤労感謝の日(「文學界」2004年5月号) 何が勤労感謝だ、無職者にとっては単なる名無しの一日だ。それともこの私に、世間様に感謝しろ、とでも言う…

イッツ・オンリー・トーク

絲山秋子。文春文庫。 プロフィール。 絲山 秋子 1966年東京生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後住宅設備機器メーカーに入社、2001年まで営業職として勤務。03年「イッツ・オンリー・トーク」で第96回文學界新人賞を受賞。04年『袋小路の男』(講談社)で第3…

家族場面

筒井康隆。新潮文庫。1995年、断筆中に発行された短編集。文庫本は単行本から「天狗の落し文」が除かれている。 作品のほとんどは各社の雑誌の1993年1月号に掲載されていることをみると、断筆宣言前に断筆を意識して書かれた作品群ということになるのだろう…

恍惚病棟

「恍惚病棟」山田正紀。現在はハルキ文庫で入手可能。 「小説NON」に1991年10月号から1992年4月号まで「テレフォン・クラブ」の題名で連載後、単行本化された本格推理。 食堂に老婆がひとりすわっている。老婆の前にはコーヒーの紙コップがある。コーヒーは…

ダーティ・ワーク

絲山秋子の「ダーティ・ワーク」(集英社 1365円)を読んだ。 ローリングストーンズの曲をモチーフにした連作短編集だそうで、あ、オレと関係ない世界と思ったが、読み始めてしまったものは仕方がない。そのためにわざわざCDを借りてくるというのもなあ。あ…

「権現の踊り子」

講談社文庫。522円税別。 町田康、短編集。第二十八回川端康成賞、受賞。 鶴の壺(東京新聞 一九九九年二月二七日) 鶴が入院している、しかも病状はかなり深刻でいつみまかってもおかしくないという話を最初に聞いたのは、確か湯豆腐で熱燗をやりながらだか…

「上陸 田中小実昌初期短編集」

冒頭にあるのは、「文藝春秋」に土田玄太名義で発表された「やくざアルバイト」。 「やくざアルバイト」(文藝春秋 一九五〇年七月号) 「厄年の方はありませんかな。厄に当たった人は、縁談、金談、新築、移転、旅行、何でも良くないぞ、御注意なさい。昨年…

逃亡日記

日本文芸社。1200円+税。 インタビュー本だが、誰がインタビューしているのかよくわからない。 失踪日記の舞台となった土地を本人が案内している写真が収穫。 書き下ろしマンガが面白い。量は少ないけど。このパターン多いな。 口数は少ないけど、毒のある…

「ポロポロ」(田中小実昌)

河出文庫で735円。お買い得の短編集である。 収録作と冒頭の文章を。 「ボロボロ」(『海』一九七七年一二月号) 石段をあがりきると、すぐそこに、人が立っていて、ぼくは、おやと、おもった。 「北川はぼくに」(『海』一九七八年三月号) 死んだ初年兵は…

「ナイチンゲールの沈黙」

デビュー作の「チームバチスタの栄光」は面白かった。医療ミステリーとしては突出した傑作だ。キャラクターといい、展開といい、文章といい、どうしてこんなにレベルが高いのだろうと驚かされる。エンターテインメントとして完璧なのだが、じつは面白さの後…

「日本の行く道」

書名 「日本の行く道」 著者 橋本治 版元 集英社新書 価格 777円 評価 ☆☆☆☆☆ 新宿の書店で偶然出会い、帯の『今の日本に漠然としてある「気の重さ」を晴らす 作家の確かな企み!』という惹句にひかれた。 橋本治といえば、私にとっては、「桃尻娘」と「花咲…

チーム・バチスタの栄光

「医龍2」にはまっているので、バチスタという単語に敏感に反応してしまい、「チーム・バチスタの栄光(上)(下)(宝島社文庫)を買った。一気読み。 このミス一位は伊達じゃなかった。 海堂尊、恐るべし。 医療ものであり、純粋なミステリであり、実質的な探偵…

パーマー・エルドリッチの三つの聖痕

「パーマー・エルドリッチの三つの聖痕」(フィリップ・K・ディック)を読んだ。昭和に買ってあったのを今頃。 書かれたのは1965年で、もはや古典の領域。冒頭からいきなりスマイル博士のカバンなどというガジェットが登場して、ディック節炸裂。 時は2004年、…

逃亡くそたわけ

いまのままではダメになる、と思う人へ 「逃亡くそたわけ」を読む。 九州最大の精神科単科病院。その開放病棟から、躁転した21歳の女の子と24歳の茶髪のサラリーマンが脱走する。 花ちゃんはなごやんに言う。 「これ以上テトロピン飲み続けたら廃人になるけ…

佐賀のがばいばあちゃん

明るい貧乏話 佐賀のがばいばあちゃん (島田洋七 徳間文庫) いまさらという感じだが、「佐賀のがばいばあちゃん」を読んだ。 売れたものはそもそも読まないというひねくれた性格の私だが、この本には素直に感心した。島田さんのおそろしく素直な心が読者にそ…

ぼうふら漂遊記

長い長い「後巷説百物語」を読み終わりすこし放心した。 次、なにを読んでいいか分からないというときに私が手に取るのはかならず色川武大全集で、今日は16巻を読んだ。 メインはミセス・アンとともに世界を漂泊する「ぼうふら漂遊記」。何度読み返しても秘…

土壇場の経済学

再読だと思うが、はじめてのように新鮮に読めた。 この本を読むと、「日本はもう滅びているなあ」とつくづく思う。 廃墟の上で生きていること、生きていかねばならないことを思い知らされる。 高校生の必読書、としてもいいのではないだろうか。 友情に関す…