「螺鈿迷宮」上下巻、海堂尊、角川文庫。2006年11月発行。1000円。上下巻に分かれているものの、それほどの厚さはなく、一気読みできる。
デビュー作、「チーム・バチスタの栄光」、その直接の続き、「ナイチンゲールの沈黙
」はいずれも宝島社文庫だったが、今回は角川文庫。にもかかわらず、架空の街「桜宮」で起きる医療ミステリという意味では同一シリーズといっていい。解説ではもはや桜宮サーガと呼ばれている。
多作で、作品の質が高くて、現役の病理医師という文句のつけようのない人。
いままでの作品。
田口・白鳥シリーズ
チーム・バチスタの栄光 | 2006年1月 | 宝島社 |
ナイチンゲールの沈黙 | 2006年10月 | 宝島社 |
ジェネラル・ルージュの凱旋 | 2007年4月 | 宝島社 |
イノセント・ゲリラの祝祭 | 2008 | 宝島社 |
その他の小説
螺鈿迷宮 | 2006年12月 | 角川書店 |
ブラックペアン1988 | 2007年9月 | 講談社 |
夢見る黄金地球儀 | 2007年10月 | 東京創元社 |
医学のたまご | 2008年 | 理論社 |
ジーン・ワルツ | 2008年 | 新潮社 |
ひかりの剣 | 2008年 | 文藝春秋 |
極北クレイマー | 2009年4月 | 朝日新聞社 |
その他
死因不明社会 | 2007年11月 | 講談社ブルーバックス |
息をつく間もない活躍。
「螺鈿迷宮」は、宝島社以外からは初の出版であり、書かれた順番としては二番目だが、田口・白鳥シリーズを先行したいという版元の意向で順序としては、「チーム・バチスタの栄光」「ナイチンゲールの沈黙」「螺鈿迷宮」の順番になった。沈黙と螺鈿はほぼ同時出版である。舞台も同じ桜宮で、螺鈿には田口先生がほとんど登場しないが、潜入捜査の氷姫が活躍する。ロジカルモンスター白鳥がたじたじとなっているところが、意外だ。シリーズ構成としては、神格化を防ぐ意味で、とてもうまい。
アリグモという虫をご存じだろうか。
この出だしは、ちょっと効いてない気がする。全体のテーマは終末医療で、今日的。デス・コントロールは殺人とどこが違うのか。小説だから違うといえるが、現実的には認められないだろう。その意味で、虚構で「闇の一族」を描く意味はとても大きい。「ブラックジャック」にもいたなあ、デス・コントロールのひと。
テーマはとてもいいのだけど、死体の処理にはちょっと首を傾げる部分もあった。骨の処理方法は、阿刀田高の短編に似たものがなかっただろうか。