酒気帯び車椅子

 中島らも。長編小説。初出、「小説すばる」二〇〇四年三月号〜八月号

 霧のような雨がもやを成している中を私は早足で「ひさご」へ向かった。とにかく早く一杯やりたかった。「ひさご」は横須賀本町に建つ私の家のごく近くにある居酒屋だ。そのまつすっと家に帰って家の酒を飲めばいいようなものだが、最近ちと会社で頭の痛いことが続いてストレスが溜まっている。不機嫌を抱いたまま仏頂面で家に帰りたくない。軽く二、三杯やっつけて、ほろっとして帰宅したい。

 商事会社の部長が、妻子を犯され、誘拐され、自分も下半身不随にされて、「ひさご」の呑み友達とともに復讐を遂げる話。
 狂気のアクションだが、そこにいたるまでの地味な描写とディティールが素晴らしい。主人公とらもさんの姿が重なる。
 文句のつけようのないエンターテインメント。