恍惚病棟

 「恍惚病棟」山田正紀。現在はハルキ文庫で入手可能。
 「小説NON」に1991年10月号から1992年4月号まで「テレフォン・クラブ」の題名で連載後、単行本化された本格推理。

 食堂に老婆がひとりすわっている。老婆の前にはコーヒーの紙コップがある。コーヒーはすでに冷めてしまっているらしい。

  舞台は、聖テレサ医大病院精神神経科老人性痴呆症を扱う病棟だ。ボケている探偵が登場すればすごいが、さすがにそれは無理だったようで、アルバイトの女の子が語り手となり、病棟でおきる連続殺人事件の謎を追う。探偵役が微妙。探偵候補が何人かおり、そこにトリックが仕掛けられているのだが、その部分は失敗しているように感じた。
 作者の資料の読み込みはいつものように凄く、老人性痴呆症についての蘊蓄が身につく。身についてどうする、という気もするが。
 気になるのは、本書の中でのコンピュータの扱い。91年といえばまだインターネットは広まっておらず、パソコン通信の初期。その頃のコンピュータのスペックの貧弱さといえば言語を絶するものだったが、本書の中ではすでにある種のバーチャルリアリティが登場する。先進的だったのだろうなあと思うが、いま読むとやはり無茶だなあと感じる。
 構成は以下の通り。

プロローグ
第一章 空間失見当識(しつけんとうしき)
第二章 情動失禁
第三章 時間失見当識
第四章 人物誤認
第五章 夜間せん妄
第六章 仮性痴呆
第七章 人格崩壊
エピローグ

 聖テレサ医大病院老人病棟の痴呆患者・伊藤道子が行方不明となった。心理士のアシスタント平野美穂は、付近の駐車場で昏倒している美知子を発見するが、美知子は心筋梗塞で死亡してしまう。その夜、美穂は霊安室で美知子の柩を覗き込む不審な男を目撃、男を追って危うく轢き殺されそうになった。道子の死には何かが隠されているのか? 直後、今度はやはり痴呆症患者の元会社会長が謎の死を遂げた。彼らの不審死の裏に何が? 苦味のあるユーモアを駆使し、現代の盲点を衝く異色の本格推理。