デビュー作の「チームバチスタの栄光」は面白かった。医療ミステリーとしては突出した傑作だ。キャラクターといい、展開といい、文章といい、どうしてこんなにレベルが高いのだろうと驚かされる。エンターテインメントとして完璧なのだが、じつは面白さの後ろに「書かれた動機」が存在した。
作者の海堂尊は現役の医師だ。
いまも医療現場にいる。
「チームバチスタの栄光」は「日本にはあまりにも死因不明の死体が多い」という事実をもとに書かれている。
なぜ死因不明の死体が多いかというと、死体解剖が滅多に行われないためである。そのため、海堂尊はオートプシー・イメージング(Autopsy imaging、Aiと略す)、すなわち、CTスキャンやMRIによる死亡時画像診断が必要だという強いメッセージを小説に込めた。
続編となる「ナイチンゲールの沈黙」では、犯行現場は病院を離れる。アリバイ崩しなど、よりミステリの要素が濃厚になっているが、もっとも強烈なのは医学的に破壊し尽くされた遺体だ。
アメリカの科学捜査ドラマ「CSI」シリーズや「クリミナル・マインド」などで猟奇的な遺体は見慣れたつもりだったが、さすがにこれは映像化できないと思った。下手にやればまったくリアリティを失ってしまうだろう。
文章でしか表現できない遺体、ということでも貴重な作品である。そして、もちろん、解決にはAiの視点が生きる。読んで損はない作品。