快適なアウトプット

電書とは直接関係ないけど、「入力」について書いておきたい。
電書は電子的なデータだから、文字以外にも絵、写真、音、動画、なんでも組み合わせることが可能だ。
とはいえ、個人的にはメッセージを伝えやすいのはマンガと活字だと思っている。音楽や動画は、電書という形をとらなくてもそのままパッケージしてしまえばいい。
電書を読むデバイスのモニターサイズが定まらない以上、マンガの電書展開もかなりむつかしいものがある。
というわけで、パソコン誕生以来ずっと続いてきた文字によるコミュニケーションは、電書時代になってもまだ当分つづくとみている。
となると、気になるのは、頭で思い浮かべたイメージを外に吐き出すための方法、すなわちタイピングだ。

いま、スマートフォンで文章を書いている人と、パソコンで書いている人の割合がどのくらいまで近接しているのかは、知らない。が、パソコンに限っていうと、JISかなVSローマ字入力では、断然、ローマ字派が多い。効率からいっても指の疲れ方からいっても当然の話ではある。当然、スマホよりも速い。
ではローマ字万歳かというと、そんなことは全然ないというか、あれはもう妥協の産物というか、それしかないから残ってしまったというたいへん残念な入力方法なのである。

日本語は、形が大事である。「狂気」と書こうとしたとき、頭の中にはたぶん「狂気」という漢字の形がある。「狂気」「きょうき」「kyouki」と並べると、だんだんわけがわからなくなってくる。
ローマ字入力を使っている人は、「狂気」を思い浮かべたら「kyouki」と脳内変換して打鍵し、それをIME(日本語入力ソフト)が「きょうき」と表示して、変換作業を行い、数々の候補から「凶器」ではない「狂気」を選び取って確定するという作業を繰り返しているのである。形→音→形という流れは無意識化されているので、自覚はないかもしれないが、脳はこの不毛な作業に疲弊しているはずだ。

では「狂気」をそのまま「狂気」とモニターに出す方法はあるのか。恐るべきことにあるのだ。漢字直接入力と呼ばれる方法である。流派はいろいろあるみたいだが、ようは一度に二個とか三個のキーを押して、ダイレクトに漢字を入力してしまうのである。変換作業がないのは強みだが、習得にはそうとう苦労するだろう。「漢字は第一次水準、第二次水準を合わせると、6000個近くあるが、実際にはそんなに覚えなくとも、よく使う漢字数百のストロークを覚え、あとはかな変換で十分使えるよ」と漢直使い友人は言っていたが、それでも大変だ。

英語はアルファベットが26文字しかないので、多少の記号を加えても、タイプライターの3段ですべて収まってしまう。数字や使用頻度の少ない数字や記号は打ちにくい四段目に押し込んでしまえばいい。アメリカ人は26個のキーを覚えるだけで直接入力ができて、日本人は千以上の組み合わせを覚えなければ直接入力ができないのはどう考えても不公平だが、言語の構造が違うんだから文句を言っても仕方ない。

日本語は、ひらがな、カタカナ、漢字、アルファベットの混じり合う非常にデリケートな文章だ。変換作業はやむを得ない。大事なのは、タイプライターのようにリズミカルに、一度の打鍵で一音を刻み込むように打鍵できることだと考えた人がいる。富士通の神田泰典さんだ。大型汎用機に日本語を乗せるという大事業を成し遂げたあとで、日本人のためのタイプライターを作ろうという決意をして作ったのが、ハードウェアとしては「OASYS」というワープロ専用機、キーボード配列としては「親指シフト配列」である。
この方式のメリットはいろいろなところで語られているので繰り返さないが、いまでもおそらく最良の日本語環境である。が、ハードウェアとしては絶命危惧種となっており、ふつうの日本語キーボードでも打てるようにさまざまなエミュレーションソフトが開発されている。一番元となる同時打鍵のアイデアに関してはすでにソースも公開されているので、WindowsでもMacでもLinuxでも利用可能だ。

筆者はこの親指シフト配列を三十年近く、愛用している。もはや離れるつもりはなく、エミュレーションソフトの開発が止まったら、キーボードから撤退し、手書きに戻るつもりだ。今日は一日、Windows7上でどのエミュレーションソフトを使ったら快適かということを調べていて、「やまぶき」という結論に達した。ローマ字入力より、速く打てるし、楽だし、バックスペースで誤入力を取り消すのも簡単だ。
習得にかかる時間は一日三十分練習するとして、二、三週間。最初はゆっくりゆっくりだが、チャットでも始めるとあっという間に打鍵速度は高速化する(やっぱり瞬間的に言いたいことがないと、本気に慣れないものです)。

というわけで、木曜日の集まりには、親指シフトのことも話すかもしれないので、脳裏のイメージを心地よくアウトプットしたい人にも来てほしいなー。