密愛
すげえ!
いや、足りないな。
すげえ! すげえ! すげえ!
と三回くらい叫んでから、ようやく感想でも書こうかという気持ちになる。
シーズン7の最高傑作は「越境捜査」で決まりなどと勝手なことを思っていたが、このような作品を観せられては、気持ちがゆらぐ。やってくれたな、古沢良太。
作品構造の凄さという点ではやはりハセベバクシンオーの「越境捜査」が頭ひとつ抜けていると思うのだが、今回は右京さんが正面から人の愛について挑む意欲作である。
その点だけでも画期的なのに、
・ほとんどのシーンが岸恵子との対話だけで進む
・紅茶のブレンドが謎解きのキーとなる
・おそるべき心理的どんでん返しがある
という凄さ。
すこしの無駄もなく、張った伏線がびしびしと決まる気持ち良さ。
絵作りも背筋が寒くなるくらい美しい。
脚本、演出、カメラと三拍子揃ってしまったのだった。
すこしだけ出てくる国広富之の演技も拍手ものだ。
山荘もの、密室もの、対決もの、という相棒独走状態の魅力を全部そろえて、その上にプラスアルファをつけている。
そしてなだれ込む感動的なラストシーン。
なぜ、右京さんが犯人に礼を尽くした態度をとるか。逆にいえば、ほかの犯人に対しては怒りや悲しみを見せるのか。
犯人が自分の犯罪についてどのくらい考えているか。自分の罪を自覚し、昇華させているか。肝になるのはそこだとおもう。
つかこうへいが熱海殺人事件で木村伝兵衛に「そんなことで犯人になれるか!」と叫ばせたように、行為だけで人は犯人になれない。犯行と犯人の間には深い川があり、川を越えるためには思索が必要だ。川を越えた犯人に対して、杉下右京は敬虔な態度をとる。
哲学のある殺人、メッセージのある殺人、いろいろな殺人があるだろうが、愛のある殺人は滅多に見られないだろう。
追伸 今回もまた、相棒候補の姿はどこにも見えなかった。
大学時代の恩師・悦子(岸惠子)に呼ばれ、彼女の山荘へとやってきた右京(水谷豊)。借金取りに追われ離れの小屋にかくまっていた榊(国広富之)が自殺したため、その身元を調べて欲しいと悦子から依頼されたからだ。しかし、右京は榊の死因は自殺ではなく他殺ではないかと言い始める。遺体を発見したとき小屋は密室状態だったのでそんなことはあり得ないという悦子に、自らの推理を語り始める右京。本当に殺されたのか? ならばその犯人は誰なのか!?
スタッフ
脚本 | 古沢良太 |
監督 | 和泉聖治 |
チーフプロデューサー | 松本基弘 |
プロデューサー | 伊東仁、西平敦郎、土田真通 |
音楽 | 池 頼広 |