プロデューサーズ

 WOWOWで新旧の「プロデューサーズ」を一気に放映した。
 「プロデューサーズ」(1968)はメル・ブルックスの監督デビュー作である。アカデミーオリジナル脚本賞を受賞している爆笑作だが、いま観ると時代を反映している部分がかなり多い。ヒトラー役のオーディションでフラワーが大好きなヒッピーが選ばれる場面など、じつにおかしいが、68年ということは同時代の風俗を笑い飛ばしているわけで、リアルタイムに観ることに意味のある映画でもあったのだろう。おそらく、いまからは想像もつかない鮮烈なデビューであったと思われる。
 この後、メル・ブルックスは「ヤング・フランケンシュタイン」、「サイレント・ムービー」と傑作を連発していくのだが、「プロデューサーズ」の世界はずっと心の中に留まり続けていたらしく、三十年以上もたってからメル・ブルックス自身の手でブロードウェイで舞台化された。もちろん大ヒット。
 舞台を映画化するという意図で作られたのが、2006年の「プロデューサーズ」である。
 ミュージカル映画として生まれ変わった「プロデューサーズ」は残念ながらメル・ブルックスの監督作品ではないので、旧作ほどのキレはない。が、ゲイの演出家を演じたゲイリー・ビーチ、その内縁の助手ロジャー・バート、ナチを崇拝している作家ウィル・ファレルの三人は大健闘と言える。この三人が画面に映っている間は目が釘付けだった。主役の二人はある意味狂言回しなので、不利は否めない。
 映画は新旧どちらもブロードウェイで大コケする舞台を作って一攫千金を目論む話である。最低最悪の作品として選ばれたのがヒットラー讃歌である「春の日のヒトラー」。この劇中舞台が、もうほんとうに、むちゃくちゃ面白いのだ。いままでは笑っているだけだったが、ふと耳に入ってきたのが「すべてはショービジネス。歴史を作るのも」(正確じゃないけど)という台詞。きちんと一回転して、尻尾を噛む蛇のように世界が完結している。お見事としか言いようがない。
 また、最悪の脚本に最悪の演出に最悪の役者を揃えたら傑作になっちゃったという基本ストーリーが面白いのは、これがただの皮肉やひねったプロットに留まらず、ある種の真実を言い当てているからではないだろうか。最悪、最悪、最悪と、狂ったように突っ走って傑作が生まれてしまうというのは、いかにもありそうなことだ。
 下品と皮肉とナンセンスと歌と踊りと真実が詰まった傑作。
 機会があれば、ぜひ。


[メル・ブルックス]
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