NHKスペシャル

うつ病治療・常識が変わる

 日曜日に録画しておいた番組を見る。
 うつが心のカゼと呼ばれることには抵抗がある。そんなに軽いもんじゃない、とうつ患者を家族にもつ者としては考える。
 「その言い方は間違いだよ」
 と思いながら、番組を見ていたが、内容はよかった。とくに抗うつ剤と呼ばれるクスリの仕組みやその弊害がわかりやすく説明されている部分。
 弊害というのは、処方の仕方によってはうつが治るどころかよけに悪化する可能性がある、ということだ。
 抗うつ剤の治療薬として、セロトニンのキャッチボールを阻害するSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)と呼ばれる種類の薬がある。
 うつ状態の脳は神経伝達物質セロトニンはが少なすぎるため、SSRIセロトニン再取り込みを邪魔して、セロトニン濃度を増やす。ここまではいいのだけど、セロトニンが増えすぎ、結果としてドーパミンが出るのを阻害することがある。ドーパミンは運動調節、ホルモン調節、快の感情、意欲、学習などに関わるので、簡単にいうとやる気がなくなり、それがうつ症状の悪化だと誤診されて、抗うつ剤の種類を増やされたり、量を増やされたりして、どんどん症状が重くなる。
 症状だけを見て、それがうつなのか、ドーパミンの不足によるやる気の減退なのかを判断することは専門家にも難しいという。
 いったん薬を減らして、その様子をみながら判断するしかない。
 ところが、患者がなにかを訴えると、自分の処方をけなされたと感じて、怒る医者が存在するそうだ。何年も症状の悪化に苦しみ、医者を変えたとたん半年で好転した事例などが番組で紹介される。
 患者も精神科を受診することに抵抗があるから、ほとんどのうつ病患者が内科や脳外科や婦人科で診断されているという現実もある。
 また、専門の病院に行っても、精神科や心療内科は、専門医でなくても簡単に開業できてしまうという構造的な欠陥があり、行き当たりばったりでいい医者に当たる可能性は限りなく低い。体験者の口コミなど、自分なりの予備調査が大切になる。
 専門家によると、最初に処方された薬に抗うつ剤が三種類以上入っていたら要注意だという。最初は一種類からスタートがキホンだそうだ。
 さらに、日本では臨床心理士による心理療法に保険が適用されず、受診したくても(経済的に)受診できないという大問題もある。
 うつの時代におけるうつを取り巻く問題が、簡潔にまとめられたいい番組だった。いくら番組がよくても現状は改善されそうにないのだけど……

100万人を超えたうつ病患者。これまで「心のカゼ」と呼ばれ、休養を取り、抗うつ薬を服用すれば半年から1年で治ると考えられてきたが、現実には4人に1人は治療が2年以上かかり、半数が再発する。その背景には、治療が長期化している患者の多くが、不必要に多くの種類や量の抗うつ薬を投与されていたり、診断の難しいタイプのうつ病が増加していることが専門家から指摘されている。さらに、医師の技量レベルにばらつきがあることも明らかになってきた。こうした中、薬の処方を根本的に見直す取り組みや、難しい診断が一目でできる技術の研究が進んでいる。また、「うつ先進国」のイギリスでは2年前から、国を挙げて抗うつ薬に頼らず、カウンセリングでうつを治す「心理療法」を治療の柱に据え、効果を上げている。うつ病治療の最前線に迫る。

http://www.nhk.or.jp/special/onair/090222.html