疑惑







 松本清張生誕百周年記念ドラマ「疑惑」を観た。1月24日(土)の放送だった。
 ええ話。
 よくできた話。
 推進力のある演出。
 おさえた演技。
 リアルタイムで観ればよかったのだが、二時間半という長さに辟易して、先延ばしにしてしまったのを後悔する。
 沢口靖子を、はじめていいと思った。
 田村正和は、想像を300%くらい上回っていた。
 テレビ朝日、やるときはやるね。うそうそ。「相棒」で毎週頑張っているのも知っている。


追伸 室井滋はきっとなにかやらかしていると思いました。

 豪雨の夜、金沢市金沢第三埠頭で一台の乗用車がブレーキもかけずに海へ転落。球磨子は自力ではい上がったものの、泳げない夫・福太郎(小林稔侍)は水死した。金沢の高級料亭「金城樓」の経営者で資産家の福太郎に8億もの生命保険がかけられていたことから、球磨子が事故を装い夫を殺害したのでは、と疑われていたのだった。
 マスコミで殺人犯のように扱われている球磨子は、保険金をかけていたことを悪びれるどころか、佐原らの前で自ら前科4犯であることを告白するなど開き直る。何かにつけて攻撃的な態度をとる球磨子に失望した佐原は原山の共同弁護人の申し出をきっぱりと断る。

 球磨子は自らの潔白を証明しようと原山とともに記者会見を。が、その会見場でも球磨子を“鬼クマ”と書き立てたキャンペーンの急先鋒、北陸日々新聞の容子(室井滋)と激しく対立する。生命保険も夫の福太郎からかけるように言われたから、と弁明する球磨子。その会見が終わらないうちに球磨子は福太郎殺害容疑で逮捕される。
 それから1年2カ月が経ったある日、佐原は球磨子から必死で無罪を訴える手紙を受け取る。手紙を読んだ佐原は13年前の忌まわしい事件を思い出していた。
 13年前、服役を終えた男に佐原は妻を殺害された。執行猶予にならなかったのは自分を信じてくれなかった佐原のせいだ…。そんな逆恨みが動機だった。以来佐原は、弁護士は依頼人を信じなくてはならない、と肝に銘じている。
 今度こそ依頼人を、球磨子を、信じてみよう…。
 佐原は病に倒れた原山と交代するように、球磨子の弁護を引き受ける。

 東京でホステスをしていたときに福太郎と知り合い、わずか3カ月で結婚した球磨子。周囲からは財産目当てと悪意を込めた目で見られ、福太郎の友人・木下(笹野高史)からは離婚話を持ちかけられている。が、球磨子は「窯で焼かれたい?」と凄み、木下が脅えて逃げるといった騒動まで起こしていた。
 いずれにしても佐原は厳しい戦いを迫られることになった。
 第一審で死刑判決を受けた球磨子はさすがに落ち込むが、一方でようやく佐原にも心を開き質問にも素直に答えるようになる。が、突如、豹変し佐原にも食って掛かるのは以前と同じだった…。
 容子から渡されたキャンペーン記事で球磨子の過去に1年4カ月の空白があることがわかった佐原は、球磨子の故郷を訪ねるなど自ら彼女の経歴を調べ始める。そんな佐原の行動に、容子はにわかに危機感を募らせ始める。

 かつて球磨子の店でちーママをしていたマキ(若村麻由美)と会った佐原は、球磨子が空白の1年4カ月の間、刑務所で知り合った老女の世話をしていたことを知る。さらに高校を中退したのも教師にレイプされたことが原因だったことがわかる。
 調べれば調べるほど、容子の記事は警察のでたらめな発表を鵜呑みにして球磨子を悪人に仕立て上げているだけではないか。佐原はそんな容子、そして警察に怒りを露にする。
 事故車の中になぜスパナと福太郎の脱げた靴が残っていたのか。佐原は自ら車で海に突っ込む実験を行う。
 佐原なら逆転無罪を勝ち取るかもしれない…。追い詰められた容子は13年前の佐原の妻が殺害された事件を持ち出し、佐原に揺さぶりをかけようとするが、義妹の純子(真矢みき)は、頑固な佐原に、今では娘の鶴子も口をきかなくなったことも明らかにする。
「どんなことがあったって仕事は曲げないわ」。
 純子の言葉に容子は無力感をかみ締める。

 控訴審では次々と検察側証人の証言を潰していく佐原。逆転無罪も時間の問題かと思われたが、佐原がスパナと靴の謎を解いたそのとき、球磨子が自殺未遂を図る。
 佐原にはその理由がわかっていた。実は性的な欠陥に悩む福太郎は球磨子に捨てられることを恐れ、無理心中を計画。スパナと靴はブレーキを踏んでもスピードが落ちないように細工するために使われたものだった。しかし、球磨子は福太郎を心から愛していた。そんな最愛の人間に殺されかけた球磨子はあえて事故と主張し、福太郎を庇いつつも「最愛の人に殺されそうになった」という忌まわしい事実を消し去ろうとしたのだった。

 最終弁論ですべてを明らかにした佐原は自らをも励ますかのように球磨子にやさしい言葉をかける。素直にうなずき涙を流す球磨子に“鬼クマ”と呼ばれたころの面影は微塵も感じられなかった。
 控訴審の判決は無罪。そして、佐原のもとにも父を気遣う娘からの電話が入った。
「本当に鶴子が…。夢みたいだ」。
 佐原は13年間の呪縛から解き放たれたかように涙を流した。