M-1グランプリ2007


 個人的には海外ドラマの一年間だったが、年末のお楽しみはやはり「M-1グランプリ2007」。今年は、前半いまいち、後半徐々に盛り上がり、決勝最終が始まるときには結果ははほとんど見えていたというわかりやすい展開だったが、いちおう、数字からの分析も加えて感想を残しておく。


 今年は12月23日(日曜日)の開催で、敗者復活戦は大井競馬場で行われた。去年のような凄まじい寒気はなく、おだやかな夜である。
 番組は六時半、今田耕司小池栄子の司会で始まった。小池栄子は今年、「歌姫」で女優として好演した。よけいなことを喋らず、アシスタントとしてはすっかり定着した感じ。今田も司会として定着。今回は、サンドウィッチマンへの「ネタあるやん!」の絶叫が名言として残った。


 審査員は島田紳助松本人志上沼恵美子ラサール石井オール巨人大竹まこと中田カウス。 島田洋七と、南原清隆が抜け、上沼恵美子オール阪神が加わった。上沼恵美子島田紳助じきじきの招聘だという。


 決戦に勝ち残った8組+1。

コンビ名 所属事務所
笑い飯 吉本興業 大阪
POISON GIRL BAND 吉本興業 東京
ザブングル ワタナベエンターテインメント
千鳥 吉本興業 大阪
トータルテンボス 吉本興業 東京
キングコング 吉本興業 東京
ハリセンボン 吉本興業 東京
ダイアン 吉本興業 大阪
サンドウィッチマン フラットファイヴ


 決勝進出メンバーをみて、正直いって今年は期待できんなーと思ったが、「なめたないかんな」とあたらめて思い知らされた。結果はこの通り。リアルタイムに視聴した人なら順当な結果だと納得できる。

紳助 松本 上沼 石井 巨人 大竹 中田 合計
笑い飯 85 85 89 85 83 85 92 604 0
POISON GIRL BAND 75 90 81 82 84 80 85 577 -27
ザブングル 86 90 92 84 79 84 82 597 -7
千鳥 86 80 85 80 87 81 81 580 -24
トータルテンボス 96 93 95 95 90 84 93 646 42
キングコング 96 93 97 95 88 90 91 650 46
ハリセンボン 86 88 93 84 86 85 86 608 4
ダイアン 86 85 89 86 81 82 84 593 -11
サンドウィッチマン 98 95 95 95 92 84 92 651 47


 詳しい結果はここ。


半帖庵-資料:M-1グランプリ審査結果


 概要はここ。


Wikipedia-M-1グランプリ


 以下、ネタばれあり。


 いつものとおり、一番手の採点が終わった時点で、審査委員長の島田紳助から「ここが始まりです。この点がこれからの基準点になります」という発言。
 というわけで、各コンビの成績は、総合得点に加え、「笑い飯」が出した得点との差違を見ていく。
 変動幅は、各審査員の出した一番低い点と高い点の高低差。どの程度、点数を大盤振る舞いするかの参考値。平均値も付加した。

笑い飯 5位

  紳助 松本 上沼 石井 巨人 大竹 カウス 合計得点
得点 85 85 89 85 83 85 92 604
基準点との差 0 0 0 0 0 0 0  
変動幅 23 15 16 15 13 10 12
平均点 88.2 88.7 90.6 87.3 85.6 83.9 87.3


 今年の一番手は、優勝できない実力者のイメージが定着した「笑い飯」。西田幸治と哲夫のコンビ。
 個人的にはだんだん劣化している気がするが、毎年、実験的な攻めをする傾向は変わらない。はじめて見たときは過激やなあと思ったが、いまでは思わなくなった。今年などは漫才ブームの時一世を風靡したB&Bの変形ではないかという気さえする。
 今年のネタはロボット。まず、「お呼びでしょうかご主人様」を「お」「よ」「び」「で」と二人で交互にいうとロボットっぽくなると哲夫がふる。しかし、七色の電飾が光るような昔っぽいロボットにこだわる哲夫と、口からウィーンと本物の口が出てくる今風ロボットにこだわる西田の方向性が噛み合わず、どこまでも振り付けが複雑になっていく。反復と暴走。B&Bである。
 ロボットっぽい発語というテーマからどんどん離れていく不条理。どうしても「お」から先に行くことができない。言葉でなく、アクションだけに絞ったところが実験的であるが、面白いかと言われると、どうもいまいち。
 ここで自己の平均点より高い得点をつけたのは、大竹まこと中田カウスのみ。大竹まことの場合、新しい笑い、実験性などへの評価を求められているから仕方がないところもあるが、中田カウスの意図は不明。評価として「独自の路線。後輩への影響」などをあげていた。現場への影響力、ということだろうか。それにしても、この出来に90点台をつける漫才観はよくわからない。
 紳助、松本、石井、大竹は一列に85点。この上か下かで判断していこうという姿勢。基準点合計が最初から600点超えというのはけっこうきついかも。
 私はスタートとしては、基本85点で、点数を抑えめにするオール巨人大竹まことが2点引きの83点、合計591点くらいが妥当ではないかと感じた。

POISON GIRL BAND 9位

  紳助 松本 上沼 石井 巨人 大竹 カウス 合計得点
得点 75 90 81 82 84 80 85 577
基準点との差 -10 +5 +2 -3 +1 -5 -7
変動幅 23 15 16 15 13 10 12
平均点 88.2 88.7 90.6 87.3 85.6 83.9 87.3


 阿部智則(あべとものり)と吉田大吾(よしだだいご)の二人組。 
 体温低そうなコンビで、ナンセンスが持ち味。
 島根と鳥取って区別がつかないよね、つけかた教えてよという展開で、教えるほうがほんとは知らなかったというおそろしく真っ直ぐな作品。
 地理を地理となんの関係もないものとして扱う。モノから具象を消し去るマジックを平凡に展開してしまった。出だしは面白かったのに残念。
 コレはアカンかな、と思ったら案の定の9位。
 ただ、評価は面白かった。紳助は75点という「死ね!」と言わんばかりの評価。体質的に合わないんだろう。一方の松本は90点と高評価。ほかの審査員もプラスとマイナスに真っ二つに割れた。大竹まことの80点がちょっと意外。

大竹まこと「変な言い方だけど、東京っぽくて、シュールで面白いんだけど、一回目と二回目の島根が二回目ものすごい期待するんだよ。ポケットの時からが。ものすごく期待するんだけど、そこがちょっと期待の内にいる感じがするんだよ。もう少し、どうにかなっただろうという。ぼくの好きなほうの笑いのタイプなんだけど。もうちょっとあるだろうって、ちょっと悔しかったね」

 好きだから肩すかし。

松本人志「いやでもねえ。ちょっとM-1用のネタじゃないような気が、10分くらいは聞いていたい感じが。ちょっと時間が違うかなあ」

 それでも90点。もって瞑すべし。また最下位やけど、来年も懲りずに来てほしい。

ザブルングル 6位

  紳助 松本 上沼 石井 巨人 大竹 カウス 合計得点
得点 86 90 92 84 79 84 82 597
基準点との差 +1 +5 +3 -1 -4 -1 -10
変動幅 23 15 16 15 13 10 12
平均点 88.2 88.7 90.6 87.3 85.6 83.9 87.3


 顔面ネタばかりと言われて悔しいから出てきたというが、結局、顔面ネタに流れていく。きっぱり封印していれば、負けても悔いは残らなかったろうに。
 スーパーでのレジ待ちのおばさんへの怒り、というありがちなシチュエーションで始まり、おばさんのキャラが立たないまま終わる。
 見終わった印象は空回り。漫才ってむつかしいなあと思う。素のふたりがやりあうわけでもなく、役柄を作ったふたりがやりあうわけでもなく、そのふたつが渾然一体となって、渦のようなものが生じないと、「客をもっていく」ことができない。
 松本人志の評価が高く、中田カウスの評価が低い。90点代と70点代が同居しているということは、可能性はあると思っていいのだろうか。上沼恵美子の評価(92点)は、微妙。ほんとにそんなに面白いと思ったのか、疑問。

千鳥 7位

  紳助 松本 上沼 石井 巨人 大竹 カウス 合計得点
得点 86 80 85 80 87 81 81 580
基準点との差 +1 -5 -4 -1 -5 +4 -11
変動幅 23 15 16 15 13 10 12
平均点 88.2 88.7 90.6 87.3 85.6 83.9 87.3


 大悟とノブのコンビ。
 M-1での知名度は高い。が、いつも不発で終わる印象。
 今回は象を洗うという意外性のあるネタで入ってきたが、まとめきれず。悪魔のささやき、個人的にはけっこう笑えたのだが。せっかく和民で毒を入れたのだから、次はかわいらしい子犬に逃げないでほしかった。
 評価も割れている。
 ここでも田中カウスだけが突出して悪評価。というより、この人、最初に「笑い飯」の評価を間違えたのではないかという気がする。あの出来の悪さに92点はない。
 島田紳助が微妙なプラス、松本人志が大幅なマイナスというのは、わかりやすさへの評価の相違だろうか。

トータルテンボス 3位

  紳助 松本 上沼 石井 巨人 大竹 カウス 合計得点
得点 96 93 95 95 90 84 93 646
基準点との差 +11 +8 +6 +10 +7 -1 +1
変動幅 23 15 16 15 13 10 12
平均点 88.2 88.7 90.6 87.3 85.6 83.9 87.3


 大村朋宏藤田憲右のコンビ。
 ホテルのサービスマンと宿泊客のやりとり。大村のボケが冴えた。渋谷系といわれるいつもの語彙は出さず、あえて正攻法できた作戦が成功。
 なにを聞かれてもボイラー室を中心に説明する大村のボケがむちゃくちゃ面白い。ネタの密度も濃く、舞台となるホテルが生きている。
 「施工主のバカ」のフレーズもナイス。
 ここまで低調だった客席が一気にわく。
 不条理あり、正統的なボケつっこみありで、大竹まことと田中カウスの低評価の理由がよくわからない。
 紳助、松本、石井、巨人は認めている。

キングコング 2位

  紳助 松本 上沼 石井 巨人 大竹 カウス 合計得点
得点 96 93 97 95 88 90 91 650
基準点との差 +11 +8 +8 +10 +5 +5 -1
変動幅 23 15 16 15 13 10 12
平均点 88.2 88.7 90.6 87.3 85.6 83.9 87.3


 西野亮廣(にしの あきひろ)と梶原雄太(かじわら ゆうた)のコンビ。
 ビジュアル面がいいのですでにテレビで売れているにもかかわらず、参戦してきた。が、十円ハゲを公開するなど、勝負する漫才師に酔っている感じはあきらかにマイナス。
 肝心の漫才はショップ店員と客の会話。テンポも間もよろしく、十分な水準。しかし、新鮮味なし。オチは余分な付け足しだった。
 それでも、エネルギッシュな印象で高評価を得て、この時点でのトップに。大竹さんの評価が高いのはスタイリッシュだからだろうか。

ハリセンボン 4位

  紳助 松本 上沼 石井 巨人 大竹 カウス 合計得点
得点 86 88 93 84 86 85 86 608
基準点との差 +1 +3 +4 -1 +3 0 -4
変動幅 23 15 16 15 13 10 12
平均点 88.2 88.7 90.6 87.3 85.6 83.9 87.3

 今回唯一の女性コンビ。近藤春菜(デブ)と箕輪はるか(ヤセ)の二人組。
 (デブ+ヤセ)×ブサイク=爆笑
 というキャッチフレーズがついているが、ヤセのほうはべつにブサイクではない。死に神には似ているけど。
 「○○になりたい」ネタ。ヤセのほうがお天気お姉さんになりたいという、ありがちなもの。中味はまあまあ面白かった。M-1のネタでは終わったあとに残る強烈な一言が必要。「天狗が入ってしまう」という、近藤のツッコミは高得点。
 得点は意外に伸びなかったが、600点はクリア。現時点での実力では、最高の出来ではないかという気がする。

ダイアン 8位

  紳助 松本 上沼 石井 巨人 大竹 カウス 合計得点
得点 86 85 89 86 81 82 84 593
基準点との差 +1 0 0 +1 -2 -3 -6
変動幅 23 15 16 15 13 10 12
平均点 88.2 88.7 90.6 87.3 85.6 83.9 87.3


 スカウトネタ。
 なにも始まらない、というのが今年のトレンドなのだろうか。
 スカウトが質問だけして最後まで正体わからず、というのはいいのだが、それだと効果的なツッコミが出にくい。つまり漫才っぽくない。そのあたりが響いたのか中田カウスの評価が低く、600点をクリアできなかった。
 審査員全員が80点台をつけるという「可もなく不可もなく」の典型となった。決戦初出場にしては地味。

サンドウィッチマン 1位

  紳助 松本 上沼 石井 巨人 大竹 カウス 合計得点
得点 98 95 95 95 92 82 92 651
基準点との差 +11 +10 +6 +10 +14 -1 0
変動幅 23 15 16 15 13 10 12
平均点 88.2 88.7 90.6 87.3 85.6 83.9 87.3


 麒麟枠(敗者復活戦)で這い上がってきた無名の二人。ヤクザっぽい風貌だが、日常感を生かしたしゃべくりのテンポで衝撃を与える。
 一気にそれまでの8組をごぼう抜きで台風の目に。
 ありがちな該当アンケートネタだが、いろいろな方向からの笑いが詰め込まれていて、凝縮感がある。一本道を走り抜ける爽快感。ダイアンのスカウトネタが方向感を失っていただけに、プラスアルファがあったかもしれない。
 紳助、松本、上沼、石井、巨人がきわめて高い評価を与えたのに対し、大竹とカウスはほとんど評価ゼロ。

勝戦

 決勝戦は、トータルテンボスキングコングサンドウィッチマンの三組で争われた。
 勢いに乗っているのは明らかにサンドウィッチマンで、ピザ宅配ネタを繰り出して、優勝した。
 票がキングコング1票、トータルテンボス2票、サンドウィッチマン4票に割れたのが不思議なくらいで、完勝といっていい。

まとめ 審査員の好みを数字から見る

 審査員は七名。持ち点は一人100点。
 しかし、島田委員長のいう「基準点」を中心に細かく観ていくと、もうすこし多くのことがわかる。
 「笑い飯」の得点を0とした場合の、各コンビの得点差を表にしてみた。今回は笑い飯がちょうど中間の5位なので、各委員の好みが色濃く採点に反映している。
 赤色がついているのは各審査委員のベスト。黄色は第二グループ、緑は第三グループ、青は最下位。
 これをみると、各審査員の採点傾向がよくわかる。
 まず紳助は、よくできました、できました、ダメが明確。90点台は三人とも決勝に残っている。
 松本も同傾向だが、紳助ほど振幅は大きくない。POISON GIRL BANDザブングルを買っている。
 上沼は、決勝三組以外に、ザブングルとハリセンボンを評価。
 石井は、一番無難な評価。笑い飯とダイアンを比較的評価しているところが特徴だろうか。
 巨人の評価は独自性があって面白い。ザブングルとダイアンを評価していない。
 大竹は、サンドウィッチマンを評価しなかった孤高の人。しかし、イチオシがキングコングというのはいかがなものか。
 中田カウス笑い飯への執着が濃い。
 ということで、来年が楽しみ。どうも常連組から優勝者は出てきそうにない雰囲気が醸成されてきた気がする。

紳助 松本 上沼 石井 巨人 大竹 中田
笑い飯 85 85 89 85 83 85 92
POISON GIRL BAND 75 90 81 82 84 80 85
ザブングル 86 90 92 84 79 84 82
千鳥 86 80 85 80 87 81 81
トータルテンボス 96 93 95 95 90 84 93
キングコング 96 93 97 95 88 90 91
ハリセンボン 86 88 93 84 86 85 86
ダイアン 86 85 89 86 81 82 84
サンドウィッチマン 98 95 95 95 92 84 92