軌道離脱

 「軌道離脱」(ジョン・J・ナンス)、読了。
 誰にも知られない場所で内心をぶつぶつ呟いていたら(書いていたら)、それが全世界20億人に向けて実況中継されていた、という話。内心がバレるだけでも恥ずかしいのに、死を覚悟しての告白だから、恥ずかしさはどんどん加速する。
 どうすればこんな状況が作れるかというと、民間企業の宇宙船に乗って宇宙旅行に出かけたところ、地球軌道に乗ったとたん、事故でパイロットが死亡。二酸化炭素除去装置の飽和により五日間の間に死が訪れることは確実。そこで、装備してあったラップトップパソコンに回想を打ち込み始めるという設定である。
 それがどうして地球に伝わるか、というのはキモの部分なので秘密。
 じつに巧みな設定で、興奮しながら読み終えたが、読み終えて三十分くらいすると興奮が冷めてしまった。
 よく考えてみると、死を覚悟して書くのは文学の基本で、なんだか、この巧みすぎる設定ってインスタント文学発生装置のような気がしてきたのだった。すでにハリウッドでの映画製作が決定しているらしいが、いかにもという感じ。
 どうでもいいようなつっこみ。搭載しているラップトップパソコンがDELL製というのに笑った。なぜそんな重いものを積むのか。ここはソニーパナソニックでしょう。
 あと、これは原文がそうなのか、翻訳者の趣味なのかわからないけど、言葉の選択に違和感があった。「周囲はひっそりかんと静まり返っている。」とか。いらんだろ、ひっそりかん。くどすぎ。